「スライダクスがあるからダメ」なのか―風俗営業許可の照度規制について考える
以前、このホームページで「スライダクス調光器の付いた照明設備について」という記事を書きました。
あれから年月が経ちましたが、この問題について改めて考えてみたいと思います。
「スライダクス」とは、照明の明るさを自由に調節できる、いわゆる調光器です。
風俗営業許可では、このスライダクスについて、「設置してはいけない」と説明されることがあります。
しかし、私は、この説明には少し違和感があります。
設備基準に違反するのは、本当に「スライダクス」なのでしょうか。
法令が規制しているもの
風俗営業の営業所には、照度に関する構造・設備基準があります。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行規則(参考:e-Gov「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行規則」)は、接待飲食等営業について、営業所内の照度が「5ルクス以下とならないように維持されるため必要な構造又は設備を有すること」を求めています。
ここには、
「スライダクスを設置してはならない」
とは書かれていません。
法令が求めているのは、営業所を基準以下の低照度にできない構造・設備です。
ここが、この問題を考える出発点です。
では、なぜ「スライダクス等」と書かれているのか
警察庁の解釈運用基準(参考:警察庁「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準」)には、「スライダクス等」という言葉が実際に登場します。
しかし、その文章は単に、
「スライダクス等の照明設備」
とは書いていません。
問題としているのは、
「照度の基準に満たない照度に自由に変えられるスライダクス等の照明設備」
です。
重要なのは、ここです。
「スライダクス等」ではありません。
「照度の基準に満たない照度に自由に変えられる」ことです。
スライダクスは、そのような状態を容易に作り出すことのできる照明設備の典型例として挙げられているにすぎない、と読むべきではないでしょうか。
スライダクスがあっても、低照度営業ができなければどうなるのか
例えば、ある店舗に多数の照明があるとします。
その一部にスライダクスが設置されている。
しかし、そのスライダクスを最低まで絞っても、他の照明によって営業所内のすべての測定場所で基準を超える照度が確保される。
この場合、スライダクスをどれだけ操作しても、低照度営業はできません。
それでも、
「スライダクスがあるから設備基準違反です」
となるのでしょうか。
私は、ここに疑問を持ちます。
なぜなら、法令が防ごうとしている状態を、その設備によって作り出すことができないからです。
反対の場合を考えると、もっと分かりやすくなります
今度は、スライダクスが一つもない店舗を考えます。
すべて普通のオン・オフ式照明です。
しかし、いくつかのスイッチを切るだけで、営業所内を簡単に基準照度以下にできる。
スライダクスはありません。
では、この照明設備には何の問題もないのでしょうか。
もし、
「スライダクスがある店はダメ」
「スライダクスがない店は大丈夫」
という理解をしてしまえば、そういうことになってしまいます。
しかし、それでは照度規制の目的と結果が逆転します。
設備基準違反なのは「低照度営業を可能にする照明設備」です
ここが、私が最も重要だと考えるところです。
風俗営業許可における照度の設備基準は、特定の種類の照明器具を排除するための規制ではありません。
営業所を基準照度以下にして営業することを防ぐための規制です。
したがって、設備基準との関係で問題になるのは、
その照明設備によって、低照度営業が可能になるのか。
です。
スライダクスであろうが、別の方式の調光器であろうが、オン・オフ式のスイッチであろうが、本来見るべきものはその名称ではありません。
低照度営業可能な照度を作り出すことのできる照明設備なのか。
ここに設備基準適合性の判断の核心があると、私は考えます。
典型例が、いつの間にかルールそのものになる
行政実務では、判断を統一するために典型例を示すことがあります。
それ自体は必要なことです。
スライダクスは、一つの操作で照度を大きく変えることができる。
だからこそ、「低照度営業を可能にする設備」の典型として解釈運用基準に名前が挙げられているのでしょう。
しかし、
低照度営業を可能にする設備
↓
その典型例としてスライダクス
↓
スライダクスは禁止
と変わってしまえば、最後には規制目的が消えて、設備の名前だけが残ります。
私は、このような逆転を行政実務の中で起こしてはいけないと思っています。
たかが調光器一つの話、ではありません
スライダクスを外せば済む。
そう言われれば、そのとおりかもしれません。
許可を取ることだけを考えれば、行政から言われたとおり外した方が早い場合もあるでしょう。
しかし、私がこの問題を考える理由は、スライダクスという一つの設備を守りたいからではありません。
法令が規制しているものと、行政実務が規制しているものが、いつの間にか違うものになってはいないか。
そこを考えたいのです。
行政が分かりやすい基準を用いて法令を運用することと、行政実務の中で作られた基準そのものを法令として扱うことは違います。
だから私は、
「スライダクスがありますね」
と言われたとき、それだけで思考を止めたくありません。
問うべきことは、もっと単純です。
その照明設備によって、低照度営業ができるのですか。
できるのであれば、設備基準との関係が問題になる。
できないのであれば、なぜ設備基準に適合しないのか。
法令に戻って、その理由を考える。
それが、行政手続に携わる者の仕事だと私は考えています。


