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かけがえのないあなたの自由を支援します|法務行政書士事務所リーガル・ウィンド|福島県福島市 > 民事法務 > 交通事故及び後遺障害 > 「この事故は8対2です」と言われたら―過失割合の前に、過失はあったのか

「この事故は8対2です」と言われたら―過失割合の前に、過失はあったのか


判例タイムズ147事例を機械的に当てはめないために

数年前、親戚から、交通事故における相手方保険会社の対応について相談を受けました。行政書士業務として受任したものではなく、身内からの相談に応じたものです。また、私が代理人として保険会社と示談交渉を行った事案でもありません。

事故の相手方保険会社は、事故の具体的経過について十分な検討を示さないまま、判例タイムズに掲載された類似事故の基本過失割合を当てはめ、当初、被害者側にも30%の過失があると主張しました。その後、被害者側の過失を20%とするところまで譲歩しましたが、私が疑問に感じたのは、その数字の大小ではありませんでした。

過失相殺を論じるためには、その前提として、被害者に、事故の発生又は損害の拡大について斟酌すべき過失がなければなりません。ところが、保険会社の説明からは、この被害者が、いつ、どのような注意義務に違反し、その違反が事故の発生にどう影響したのかが見えてきませんでした。

交通事故の実務では、事故の形を判例タイムズに掲載された類型に当てはめ、「この事故なら何対何」と示すところから議論が始まることが少なくありません。保険会社に限らず、法律の専門家であっても、まず基本過失割合を示し、その後に修正要素を検討するという思考に慣れているように感じます。

もちろん、類型化された基本過失割合を検討の出発点とすること自体には、実務上の合理性があります。しかし、その数字は、事故の外形だけから自動的に導かれるものではありません。そこには、典型的な事故状況と、双方の運転者について想定された注意義務違反が、あらかじめ織り込まれています。

「この事故は8対2です」と数字を示すことは簡単です。しかし、その「2」は、いったい被害者のどのような過失を評価した数字なのでしょうか。この問いを飛ばしたまま、判例タイムズの図と事故の形を見比べても、それは十分な法的判断とはいえません。

この形の事故なら何対何、というところから始めるのではなく、まず、それぞれの運転者が何を認識し、何をすべきであり、現実に事故を回避できたのかを検討する。その結果として被害者にも過失が認められて初めて、過失割合の問題が生じます。

以下に掲載するのは、そのような考えから、被害者本人が相手方保険会社へ提出する文書として、私が作成した「ご連絡」です。掲載に当たり、当事者及び事故現場を特定し得る情報を抽象化し、明らかな誤記やウェブ上の読みやすさに関わる箇所だけを補正しました。主張の内容と論旨は、作成当時のものを維持しています。

過失割合は、事故の形に数字を貼り付けて決めるものではない。

被害者本人の主張として提出した書面

本件事故につき、当方の見解を申し述べます。

結論から先述いたしますと、本件事故の発生は、相手方の重過失行為のみに起因するものであり、事故と因果関係のある当方の過失行為は認められず、したがって本件事故に当方の過失行為を前提とする過失相殺の概念を持ち込むこと自体が不適当であり、発生した損害に対する責任は全て相手方が負うものであると主張いたします。以下、具体的に説明いたします。

1.相手方の重過失行為について
(1)駐車場への出入方法について

本件事故は、相手方車両が、ある地方都市に所在する複数の商業店舗用駐車場(以下「店舗駐車場」という。)から、交差点北側付近の幹線国道(以下「国道」という。)の北進方向車線(以下「国道北進車線」という。)へと右折進入及び進行を試みて、国道南進方向2車線(以下「国道南進2車線」という。)のうちの右折車線(以下「国道南進右折車線」といい、もう一方の直進車線を「国道南進直進車線」という。)を走行してきた当方車両と衝突したものである。国道は、交通量が多く、加えて本件事故現場は交差点に近接しているため、交差点へと進行する側の国道南進2車線は、常態的に信号待ちをする車両が車列を形成している。同様に、国道北進車線も交差点を通過してきた側であるため車列こそ形成しないが、常態的に交通量が多いことは周知の事実である。そのため、相手方が選択したルート(店舗駐車場から直接国道に進入し右折するルート)で走行すると、国道を走行する車両の通行の妨げとなるし、なにより事故に至る危険があるため、店舗駐車場から国道北進車線へと進行しようとする利用者のほとんどは、当該ルートを使用せず、店舗駐車場の別の出入口から退出右折し、その先に存在する現場付近の交差点へ向かう誘導路を使用して同交差点に至り、同交差点を右折して国道北進車線を進行するルートを選択している。当方も常にそうしており、相手方が選択したルートで走行したことは一度たりともない。

(2)相手方の安全意識の欠如

本件事故時の具体的状況を、相手方車両搭載のドライブレコーダーの映像を基に述べると、本件事故発生時も、相手方車両が国道北進車線へと進入進行しようと店舗駐車場内を転回して国道を真正面に見据えた時点において、国道南進直進車線において信号待ちの車両による車列が形成されていた。ほとんどの店舗駐車場利用者のように、通常の判断能力を有するドライバーであれば、この車列を認識した時点で、店舗駐車場の国道側出入口を右折して国道北進車線へと進入進行することを躊躇するのだが、相手方は、その状況を気にもとめずに、そのまま漫然と相手方車両を進行させ、15秒に満たない時間の後(国道に進入してからは6秒程度の後)、当方車両に衝突しているのである。運転行為の危険性に比してあまりにも安全確認及び判断に費やす時間が短い。そもそも相手方は、当初から当然のように、ほとんどの利用者が選択しない店舗駐車場の国道側出入口から国道北進車線へと進入進行することを決めており、以上の事実は、相手方が、常態的に安全意識を欠き、かつ、判断能力も不十分なドライバーであることを窺わせる。

(3)一時停止違反が表象するもの

相手方は、国道北進車線に進入するまでの過程で、まず、国道横の歩道上を通過する際に一時停止する義務(道路交通法(以下「法」という。)第17条第2項)があったが、停止することなく漫然と進行を継続している。この違法行為が直接的に本件事故に関係しているわけではないが、この事実は、国道南進直進車線の車列に隙間があることを奇貨として、安全確認などそこそこに、早く国道北進車線へ進入しようと急ぐ相手方の心理状況を表象している。

(4)状況確認の欠落

国道南進直進車線に進入した相手方車両は、その後、国道南進右折車線にさしかかった時点で停止している。この停止を捉えて相手方は一時停止をして頭出しを行ったなどと主張しているが、これは他の車両に自己の存在を気付かせる意図や安全確認の意図で停止をしたのではなく、国道北進車線を北進して相手方車両に接近してくる車両が左方視界に入ったため、相手方としては停まらざるを得なかったというのが実状である。安全確認のため一時停止をして、左右の安全確認を十分行っていたのであれば、もう一方で国道南進右折車線を相手方車両に向かって接近してくる当方車両の存在も十分に確認できていたはずであり、その確認ができていれば、国道北進車線を走行する車両をやり過ごして間髪入れずに発進し当方車両に衝突することなどあり得ない。実際には、相手方は、左方国道北進車線の車両ばかりに気を取られ、右方から接近する当方車両の存在など全く確認しておらず、国道北進車線を走行する車両をやり過ごすと同時に、当方車両の接近など全く認識せぬまま、何の躊躇もなく発進し、制動することなく当方車両に衝突し、衝突後もさらに進行を続け、国道北進車線へと進入しているのである。

(5)法令違反を伴う重過失行為

以上のように、本件事故は、まず相手方が、国道南進直進車線に信号待ちの車列が形成されていることを認識しながらも、店舗駐車場の国道側出入口を右折して国道北進車線へと進入進行するという危険度の高い選択をし、しかしながらその危険度に見合うだけの安全確認を怠り、特に、左方から接近する国道北進車線の車両のみに気を取られ、右方から接近する当方車両の認識を欠いたまま、車両を進行させたことで生じたものである。この相手方の行為は、まず、他の車両の正常な交通を妨害するおそれが極めて高いのにもかかわらず、道路外の施設から出車して国道を横断している点において、法第25条の2第1項に違背し、さらに、安全確認を欠き、交通状況を把握しないまま他人に危害を及ぼしている点で法第70条に違背することはもちろんであるが、自ら危険な状況を作出しておきながら、したがって厳重かつ慎重な安全確認が要求されていたにもかかわらず、平時において当然行われるはずの左右確認すら怠ったことで本件事故を引き起こしたわけであるから、まさに無謀運転というべきものであり、重過失行為との評価を免れない。

2.当方の過失の有無の検討
(1)信頼の原則

一方で、当方の運転にどのような過失が認められるのであろうか。相手方は当初から過失相殺の主張をしているわけであるが、過失相殺は事故当事者双方に過失が認められる場合に適用される概念であって、当事者の一方に過失がない場合に適用されるものではない。それでは、当方にどのような過失があったというのであろうか。当方は、指定通行区分上の道路を制限速度内で走行していただけである。相手方のように漫然とした注意の下に違法行為を行い事故を招来させたわけではない。相手方は、当方の過失について、当方が国道南進直進車線上に停止していた相手方車両を確認していたわけであるから、当方も衝突を回避できたのにもかかわらず回避しなかった点に過失があると主張している。確かに、当方は、相手方車両を国道南進直進車線に停止した時点で初めて認識した。それでは、この時点で当方にどのような義務があっただろうか。この点、法第25条の2第1項による義務を負っていたのは相手方であり、当方が停止して相手を優先させるなどの法的義務はなかった。また、この時点で当方に課された注意義務の程度については、相手方車両が国道南進直進車線上に停止していて安全確認を行っているかのような外観を呈していたわけであるから、当該状況に相当する程度の注意義務しか当方は負っていなかった。すなわち、当方は、特段の事情のない限り、相手方車両が当方車両をやり過ごした後に進行を始めるとの信頼の下に進行を継続して良い状況下にあったし、当該信頼をすることが不適当とするような特段の事情は何ら認められず、そうすると当方に注意義務違反はなく、したがって過失はなかったのである。

(2)講じられた回避措置及び回避不可能性

もっとも、当方は、衝突するまで漫然と当方車両を進行させたわけではない。当方は、当方車両が相手方車両の停車位置を通過する直前に相手方車両が進行を開始したことを感知した段階で、当方車両に向かって進行してくる相手方車両を避けるため、当方車両を反対車線(国道北進車線)へと退避させたのである。この退避時点で、相手方が当方車両の存在に気付いて相手方車両を制動していれば、本件事故は防げた可能性がある。しかし、相手方は、この時点に及んでも当方車両を認識すらしていなかったため、反対車線へと退避した当方車両めがけて制動すら行わずに相手方車両を進行させ衝突させたのである。すなわち、当方としては相当の回避措置を講じてはいるのだが、当方車両の認識すら欠いていたという相手方の極めて重大な過失に基づく危険行為を回避することは不可能であったわけである。そうすると、相手方の重過失行為を回避する可能性すらなかったというわけであり、回避不可能なことについて当方が責任を負うことはないのであるから、当方に過失は認められない。この点、相手方の重過失行為に基づく本件事故を唯一回避できたとすれば、国道南進直進車線上に停止していた相手方車両の手前で当方車両が停止して、相手方車両を国道北進車線へと先に進入させることであった(もっとも当方車両の停車位置によっては当方車両の認識を欠いていた相手方車両に正面から衝突されていた可能性がある。)が、先述したように、法第25条の2第1項による義務を負っていたのは相手方であり、かつ相手方が停止をして安全確認をしているかのような信頼に値する外観を作出していたわけであるから、当方がその信頼に基づきそのように停止しなかったとしても、それをもって当方の過失などということはできない。また、停止した相手方車両を当方が認識してから2秒程度で相手方車両は進行を開始しているわけであり、その2秒程度の間に、相手方が当方車両を確認していないことを察知し、当方に形成された信頼を解き、相応の速度で走行する当方車両を相手方車両停止位置の手前で停止させることなど事実上不可能であり、不可能な回避行動を取らなかったことをもって、当方の過失とされるいわれはない。

3.結論

以上のように、本件事故は、相手方が法第25条の2第1項に違反して、交通量が多く信号待ちの車両による車列を形成している国道に漫然と進入して自ら危険状況を作出したにもかかわらず、その危険状況に見合う厳重な安全確認が要求されるところを、左方側から接近する車両のみに気を取られ、右方から接近する当方車両の確認を怠るという極めて杜撰な注意の下で運転をし、当方車両との衝突を引き起こしたのである。一方で、当方としては、相手方車両手前で当方車両を停止させるという事実上不可能な回避措置を除き、衝突を回避するために当方車両を反対車線に退避させており、可能な範囲で必要な回避措置を尽くしていた。つまるところ、相手方が重過失により当方車両接近の認識を欠いていた状況(例えれば目を瞑って運転しているに等しい状況)にあっては、当方側には本件事故を回避できるだけの手段がなかったことになり、本件事故を回避することは不可能であったわけであるから、本件事故を招来した全ての責任は、相手方の重過失行為に帰着するのであり、したがって本件事故の全ての責任は相手方が負うものである。

4.類似事案の裁判例

当方の見解を連絡するにあたって、本件事故状況に類似する2つの裁判例(「名古屋地判平成24年3月9日平22(ワ)6043号」及び「名古屋地判平成23年8月19日平22(ワ)849号」)を記載した書面を添付する。いずれも、一方当事者の過失を認めなかった裁判例である。24年判決では、被告側に法第25条の2第1項違反の過失を認め、一方で原告側の過失を否定する根拠として、信頼の原則の考え方を採用している。特に興味深いのは、被告側が類型事案の過失割合であるところの進入車8割、直進車2割(判例タイムズ147図)を根拠に過失相殺を主張したところ、裁判所が次のように判示して被告の主張を認めなかった点である。すなわち、「結果的にも、原告車の右後側面に被告車が衝突していること(このことから、原告車が先に通過するのが当然の状況であり、原告X1が被告車に先に右折させるために減速等すべき状況ではなかったことが認められる。)からしても、結果を回避するために停止すべきであったのは専ら被告車の方であったと認めるのが相当である(被告側は、路外からの進入車と直進車との衝突の場合の過失割合は、進入車8割、直進車2割が基本である旨主張しているが、それは、進入車が右折した直後に直進車が追突するような状況を前提に、直進車側にも前方不注視の過失が想定される場合であると解するべきである。本件のように、路外車が直進車の側面後部に横から衝突するような場合は、特段の事情のない限り、専ら路外車側のみに過失があるとみるのが相当である。)。したがって、本件事故について、原告X1に過失は認められない。過失相殺の主張は採用できない。」と判示しており、この点は本件事故においてほぼ同様の態様であり、当方の無過失主張を補強するものである。

一方の23年判決では、やはり信頼の原則の考え方を根拠に原告側の過失を否定している。こちらの判決で興味深いのは、仮に原告側に過失があったとしても、結果に影響しないものは過失相殺するほどの過失ではないと判示している点である。すなわち、「原告が、仮に、同②の位置に停車している被告車を認識したとしても、そのような状況で被告車が停止しているのであるから、当然、被告車は、原告車が通過するまで停止し続けてくれるものと考えて、そのまま進行して本件交差点を通過しようとするのが自然な状況であるといえる。そうすると、原告が左方を注視して交差点の発見をすることまではしなかった点は、本件事故の発生には何の影響も与えなかった(交差点を発見しても、原告は、被告車が停止し続けることを当然期待してそのまま進行したものと考えられる。)というべきである。したがって、本件事故の発生につき原告には、過失相殺をされるほどの過失まではなかったと認めるのが相当である。」と判示しており、この判示を基に本件事故に言及すれば、回避不可能な結果に対しては、その結果に影響しない被害者の過失は過失相殺されるほどの過失ではないといいうるのだから、ましてや本件のように相手方の車両を感知して当方が回避措置を講じても避けきれなかった回避不可能な事故において、当方に過失など認められようもない。

以上のとおりですので、再度ご検討くださいますようお願い申し上げます。

この文書から伝えたいこと

この文書で問題にしたのは、7対3か、8対2かという数字の大小ではありません。過失相殺の割合を論じる前に、そもそも被害者に、事故の発生に影響を与えた過失があったのかを検討しなければならない、という思考の順序です。

判例タイムズの基本過失割合は、多数の交通事故を一定の基準で処理するための有用な出発点です。しかし、そこに示された数字は、事故の形に自動的に付着するものではありません。基本割合の背後には、双方の運転者について典型的に想定された注意義務違反があります。その前提が個別の事故にも存在するのかを確かめないまま、数字だけを当てはめることはできません。

「この事故は何対何か」と問う前に、「この被害者に、具体的にどのような過失があったのか」と問う。その順序を取り戻すことが、適正な事故処理の出発点だと考えます。

掲載に当たって

※本稿は、個別の交通事故について法律相談又は示談交渉を行うものではありません。

※事故状況、損傷部位、道路状況等が異なれば、過失の有無及び割合の判断も異なります。

※引用した裁判例は、名古屋地方裁判所平成24年3月9日判決(平成22年(ワ)第6043号)及び同裁判所平成23年8月19日判決(平成22年(ワ)第849号)です。

 
 

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