多数決と民主主義(民主主義は自由主義の変容形)
自由主義とは「私のことを私で決めること」、民主主義とは「私(たち)のことを私(たち)で決めること」であって、民主主義は自由主義を包含していなければならない、と何度も述べてきました。今回は、自由主義と民主主義、そして多数決との関係について、考察してみます。
個人的事項(自由)と社会的事項(民主)
私は、どんな服を着るか、どこで暮らすか、何を学ぶかといった個人的事柄については、自由に決められます。それが自由主義です。もっとも、私は、社会の中で生きていますから、他者(あなた)とも関係する社会的事柄については、一定の調整が必要です。その調整手段が、立法や予算の配分であり、すなわち政治と呼ばれるものです。そして、この私とあなた(私たち)に関わる社会的・政治的事柄(のこと)を私たちで代表者に委ねる(決める)ことが、民主主義なのです。
民主主義は自由主義の実現手段
前項で述べたことの機序からすれば、個人の自由が先にあり、その自由を社会の中で保護・実現するために民主が生まれたのです。そうすると、民主主義とは、社会の中で自由主義を実現する手段ということになります。
民主主義は、自由主義実現の手段なのですから、民主主義「私(たち)のことを私(たち)で決めること」は、自由主義「私のことを私で決めること」を包摂しています。包摂していなければ民主主義ではありません(概念的な重要性でいうと自由主義が民主主義を包摂しているのですが)。
多数決は自由主義も民主主義も破壊するもの
ここで、多数決について考えてみます。民主主義と多数決は原理的に結びついていると考えている人が多いようです。もっといえば、民主主義は多数決のことであると考えている人も少なくないようです。しかしながら、多数決は、少数派からみれば、私たちのことをあなたたち(多数派)で決めることです。それは、民主主義に反します。少数派の自由を否定するもの(私のことをあなたたちが決めている。)、従って民主主義をも否定するもの(私たちのことをあなたたちだけで決めている。)が多数決の正体です。原理的に民主主義と結びついているどころか、原理的には民主主義から忌避されるべきもの、それが多数決なのです。
事前の審議及び討論を徹底することで民主主義を保持せよ
原理的には多数決は民主主義から忌避されるものです。しかし、複数者における意思決定の実現手段としては、多数決に合理性(簡単、即時かつ明確に決められる合理性。自由主義に基づけば、合理的ではないのですが。)があります。したがって、選挙制度、国会といった民主主義制度においても採用されています。しかし、忌避されるはずの多数決が最終意思決定の手段として民主主義制度に採用されている前提条件として、その最終意思決定に至るまでの間に、少数派の自由も確保し得たといいうるほどの徹底した審議及び討論というプロセスを経ることが必要とされるのです。そうでなければ、民主主義は崩壊し、単なる「多数決主義」に陥ってしまいます。すなわち、徹底した審議・討論のプロセスこそが、本来的には忌避すべき多数決を採用してしまっている民主主義制度において、民主主義を保持できる必要条件なのです。
インターネット民主主義
民主主義制度において、徹底した審議・討論の場として想定されているのが、国会等の議会です。国民(私たち)全員で審議・討論を行うことは現実的でないため、民主主義を実現・保持するために審議・討論の場として創設されたのが国会等の議会です。そこで、主権者である国民(私たち)は、自由主義及び民主主義を保持するため、国会において審議・討論が尽くされているかを常時監視していなければなりません(日本国憲法第12条参照)。現在においては、インターネットにおいて国会中継が放映されています。監視もずいぶんとやりやすくなっています。
そして、審議・討論の場へと私たちの代表を送り込む制度が選挙です。代表者の選任は審議・討論の前提事項ですから、民主主義においてまさに根源的な制度が選挙ということになります。この選挙においても多数決が採用されています。すると、民主主義の根源にある選挙制度が、民主主義を崩壊させる多数決主義への陥りという危険を孕んでいるということになります。投票までに審議・討論の場が想定されているわけではない選挙において、どのように民主主義を保持するかが極めて重要となります。候補者演説は想定されていますが、それだけでは不十分です。自由主義及び民主主義を保持するためには、私とあなた(私たち)の意見の融合が必要ですので、候補者同士の討論会の創設は最低限必要となります。本来的には、主権者同士(私たち)において意見を融合させる場が必要とされています。インターネットが発展した現在においては、この点においても、様々な可能性が生まれています。SNS等を通じて、主権者同士での意見融合が可能となってきています。