国民主権と民主主義の関係性
「国民主権と民主主義の違いはなんですか」との問いには、法律を学んだ人でも、結構まごついてしまうのではないでしょうか。法律書においても、この2つの概念を明確に区別して述べているものを、私は目にしたことがないように思います。多くの人は、この2つを同義の概念として捉えているようにも思われます。しかし、当然ながら、この2つの概念は異なるものです。確かに、深く関連するので区別が曖昧になってしまっているようですが、しっかりと区別して、2つの関係性を説明できないと、国民主権と民主主義のどちらの概念も理解しているとはいえないと思います。そこで、今回は、簡単ではありますが、この2つの違いと関係性について、触れてみたいと思います。
国民主権について
国民主権の主権という概念は多義的ですが、民主主義との関係性を説明する上で必要な意義は「最高決定権」です。主権とは、国家における最高決定権を意味します。国家における物事(国の政治)を最終的に決定する権限のことです。そうすると、その「主権」の前に「国民」が置かれている国民主権という概念の意義は、国政の最終決定権限(正確にいうと「権限」に加えて「権威」という意義も含まれるのですが、この辺の説明は民主主義との関係性を説明する上で重要とはいえないので、省きます。)が国民にあるということです。簡単にいえば、「国政は国民に決める権限がある」ということです。
民主主義について
民主主義については、これまで何度も述べてきました。民主主義は、「私のことを私で決めること」という自由主義を実現するために存在し、したがって、「私(たち)の事を私(たち)で決めること」という意義を有します。国民主権の意義と比べてみると気付くと思うのですが、民主主義概念は「権限」については直接的には触れていません。「決めること」の「こと」は、「手続」や「制度」を意味します。つまり、民主主義とは「私たちのことを私たちで決める制度」を意味します。
「国民主権であるから民主主義となる」という関係
以上の2つの概念の理解から、国民主権と民主主義の関係性を述べると、「国民に国政の最終的な決定権限がある(国民主権)から、私たち国民で国政について決める制度(民主主義)が必要となる。」となります。国民主権という権限を行使する上で必要となるものが、制度としての民主主義ということです。
以上、いかがでしょうか。国民主権は権限について、民主主義は制度についての概念であると整理すると、2つの概念を区別し、そのうえで関係性を説明できるようになるというお話しでした。あくまで、理解のための便法なので、概念の歴史的な由来等は措いています。
さらに自由主義という概念を加えて考えると、自由主義という概念が国民主権という権限概念を生み、そして、民主主義という制度概念を生んだ、つまり、自由主義概念が、2つの概念の生みの親と理解するのがよいだろうと思いますが、その点はまたの機会に。