憲法の特質
近代憲法には以下の特質がある。
自由の基礎法
憲法は、自由のための法である。
憲法は、国家の機関を定め(組織規範)、その機関に国家作用を授権している(授権規範)が、これらの規範が憲法の中核をなすものではない。それは、より基本的な規範、すなわち自由の規範である人権規範に奉仕するものとして存在する。
憲法の目的である自由の観念は、自然権思想に基づく。憲法の人権規定は自然権を実定化したものであり、それは憲法の中核を構成する「根本規範」である。そして、この根本規範を支える核心的価値が人間の人格不可侵の原則(個人の尊厳の原理)である。
制限規範
憲法が自由の基礎法であるということは、同時に憲法が国家権力を制限する基礎法であることを意味する。憲法が、個人の自由を確保するために、国家権力を制限しているということである。
近代憲法は、すべての価値の根源は個人にあるという思想を基礎に置き、すべて個人は互いに平等な存在であり、生まれながらに自然権を有することを実定化するという形で制定された。したがって、政治権力の究極の根拠も個人に存するから、憲法を実定化する主体は国民であり、国民が憲法制定権力の保持者であると考えられた。
このように、自然権思想と国民の憲法制定権力の思想とは不可分の関係にある。そして、自然権の内容は憲法において人権規定として実定化され、憲法制定権力は憲法において国民主権として制度化されている。
最高法規
憲法は国法秩序において最も強い形式的効力を持つ。憲法に抵触する法律・命令等は無効とされる(形式的最高法規性)。
日本国憲法では、憲法の改正に法律の改正の場合よりも困難な手続きが要求されている。このように改正が法律よりも困難となっている憲法のことを硬性憲法という。硬性憲法下において、憲法と矛盾する法律を有効としてしまっては、法律制定によって憲法を改正したのと同じ効果を与えてしまうことになってしまうため、憲法に形式的最高法規性が与えられることは論理上当然ということになる。
なぜ、憲法に形式的最高法規性が与えられているのか。それは、憲法が自由の基礎法であることから理由づけられる。すなわち、憲法が国民の権利・自由をあらゆる国家権力から不可侵のものをして保障するためには、立法権を含むあらゆる国家権力を憲法の配下に置く必要があるからである(実質的最高法規性)。
【参照・引用】
芦部信喜著・高橋和之補訂・憲法[第6版](岩波書店・2015)P9~13