法定相続証明制度の整理
2018年8月時点で、法定相続情報一覧図(以下「一覧図」といいます。)の保管及び交付の申出(以下「申出」といいます。)を行うにあたり、確認しておくべき点をまとめてみました。法務局窓口取扱い上、相続登記手続と錯綜する部分があるので、その点特に注意しておいた方がよいでしょう。
一覧図による相続人の住所証明の可否
平成30年4月1日から、相続人の住所を記載した一覧図が、相続登記をする上で、相続人の住所証明書類として取り扱われることになりました(平成30年3月29日付け法務省民二第166号法務省民事局長通達)。
そこで、一覧図の作成にあたっては、従来通り任意的記載事項ではありますが、相続人の住所も記載する方が便宜でしょう。
もっとも、当然ではありますが、一覧図に相続人の住所を記載する場合、一覧図の保管及び交付の申出書(以下「申出書」といいます。)に相続人の住所を証明する書類(住民票の写し、戸籍の附票)の原本を添付する必要があります(不動産登記規則(以下「規則」といいます。)第247条第4項)。後にも触れますが、この添付した住所証明書類の原本は一覧図の交付と共に返却されます。
添付書類である戸籍謄本等の遡り範囲
申出書には、被相続人の出生時からの戸籍謄本等を添付する必要があります(規則第247条第3項第2号)。もっとも、相続登記実務上、登記申請書に添付する戸籍の遡りは生殖可能開始年齢まででよいとされていることから、相続登記申請と同時に申し出る場合に限って、生殖可能開始年齢まで遡った戸籍謄本の添付でよいとされています。この根拠については、明文規定があるわけではなく(むしろ、規則第247条第3項第2号は出生時からの戸籍を要求しています。)、そのように実務上取扱われているということです。法務局窓口で伺った限りでは、相続登記を担当する登記官が、合わせて相続情報一覧図交付の申出も審査するので可能という理屈でした。
添付書類は原則返却、一部例外あり。
申出書には、①「被相続人の出生時からの戸籍謄本等」以外に、②被相続人の最後の住所を証する書面、③相続人の戸籍謄本又は抄本、④申出人の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード又は住民票の写しのコピーで、申出人が原本と相違ない旨を記載(以下「原本証明」といいます。)したもの。)、⑤代理人による申出の場合、代理人の権限を証する書面(原本証明必要※下記参照。)、⑥一覧図に相続人の住所を記載知る場合、各相続人の住所を証する書面を添付する必要があります(①〜⑤:規則第247条第3項第2号乃至第7号、⑥:同条第4項。※代襲相続、数次相続の場合にはその他に必要となる書類があります。)。このうち、①、②、③、⑥については、一覧図の交付と共に返却されます(規則第247条第6項)。この返却を受けるために、原本証明を付したコピーを提出するようなことは必要ありません。一方、④、⑤については、返却されません。この点、返却される①、②、③、⑥は原本を提出する必要がありますが、返却されない④、⑤は原本のコピーを提出すれば足りますので、申出書添付により原本を失うことはありません。
特に、整理しておきたいのは、④、⑤についてです。以下で言及します。
申出人の本人確認書類
④の申出人の本人確認書類※は、原本のコピーに申出人が原本証明すると、そのコピー自体が証明書となる(規則第247条第3項第6号)ので、そのコピーのみを提出すれば足り、原本を提出する必要はありません。
原本証明は、原則として本人が行い、署名又は記名押印する必要があります(平成29年4月17日付け法務省民二第292号法務省民事局長通達 記の第2の(4))。もっとも、相続登記と同時に申し出る場合には、代理人による原本証明を認める窓口取扱いがなされています。これは、相続登記における添付証明書類の原本還付(規則第55条)の場合と平仄を合わせる意図なのでしょう。ここでいう代理人は、相続登記を職務とする司法書士に限られるわけではなく、代理できる者の範囲が資格者以外は親族と限定的(規則第247条第2項)ですが、全ての代理人が該当します。
※申出人の本人確認書類とは、申出人の住所・氏名を確認することができる公的書類ですので、戸籍の附票でも大丈夫です。
代理人資格者証の原本確認
一方、⑤の代理人の権限を証する書面(資格者代理人の場合の資格者証等)については、「原本の添付に加えて、代理人が原本と相違がない旨を記載し、署名又は記名押印をした謄本が添付された場合は、登記官がそれらの内容が同一であることを確認した上、原本を返却する」(平成29年4月17日付け法務省民二第292号法務省民事局長通達 記の第2の5の(5)のウ)とあるので、原則として、原本の提示が必要かと思われます。しかしながら、窓口取扱い上、原本証明を付した資格者証のコピーを提出するのみで足り、原本の提示は求められないようです。この点は、郵送での申出を可としている都合上、そのような取扱いにならざるを得ないと思いますので、私見ですが通達内容の是正が必要なのだろうと思います。
作成者が資格者代理人の場合の住所
一覧図には、代理作成の場合、作成代理人の署名又は記名押印が必要(規則第247条第3項第1号)であり、その署名等には住所を併記する必要がありますが、資格者代理人の場合、併記する住所は事務所所在地とし(平成29年4月17日付け法務省民二第292号法務省民事局長通達 記の第2の3の(3)のオ)、その表題を「事務所」とするよう取り扱われています。