ソーラーシェアリング事案における管轄官庁への請願事例
管轄庁に農地法に基づく許可申請書の受理を拒まれた際に、その違法性を指摘し、適正な対応を求めた際に、管轄庁に対して提出した請願書です。
請 願 書
○○市農業委員会会長 様
貴庁は、株式会社ABC及び株式会社XYZを申請者とし、○○町○○○○所在の土地での営農型太陽光発電事業を目的とする農地法第5条に係る許可申請手続(以下、「本件手続」といいます。)において、許可申請前の意見照会を行うことで交付されることとなる○○市長による「営農型発電設備の設置に関する意見書」(以下、「市長意見書」といいます。)が不備であることを理由に、申請者に対し許可申請書を受け付けることができないとの見解をご提示なさいました。本書は、申請者の申請代理人である私が、以下において、貴庁の当該見解の問題点を指摘し、本件手続における許可申請書が速やかに受け付けられるよう請願するものです。
1.行政手続法に違背
まず、貴庁の見解に基づく許可申請書の取扱いは、端的に行政手続法第7条(○○市行政手続条例第7条にも同様の規定がありますが、本件手続は法令に基づくものですので、以下では行政手続法を規範とします(行政手続法第3条3項)。)に違背するものです。同条は、「行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければなら」ないと規定しています。これは、「受理」という概念を否定し、行政庁に対し申請書の到達をもって審査を開始するよう義務付けるものです。さらに同条は、以上に続き、「申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。」と規定しています。これは、審査を開始した後の行為を行政庁に義務付けるものですから、必然的に、記載事項や添付書類不備といった形式面に対する審査も、申請書到達により開始しなければならない審査の範囲に含まれていることになります。そうすると、行政庁が申請における形式面での不備を理由に審査を開始しないことは認められておらず、そのような不備は、審査開始後に申請者に対して補正を求めていく等するよう規定されているのです。
以上に、本件手続に係る貴庁の見解及び取扱いを照らせば、貴庁は、市長意見書の不備という形式面での不備を理由に許可申請書を受け付けず、したがって審査を開始できないとしているわけですから、貴庁の見解及び取扱いが行政手続法第7条の規定に違背することは明白です。
2.許可申請前の意見照会手続の合理性
貴庁は、「営農型発電設備に係る転用許可申請フロー」と題する書面(以下、「フロー図」といいます。)により、営農型発電設備のための一時転用許可申請に必要となる手続を図示しています。許可申請前の○○市長に対する意見照会手続(以下、「市長意見照会」といいます。)は、この書面において掲示されているものですが、そもそも、市長意見照会を許可申請前に申請者に対して要求することは、不当であるばかりか違法であると考えますので、以下申し上げます。
(1)法令の根拠の不存在及び法令潜脱
まず、市長意見書の添付を農地法及び関係法令は求めておらず、貴庁がそれを求める法令上の根拠が存在しません。また、許可申請前に、市長意見照会その他の一定の手続の履践を申請者に対し求めることは、上述した行政手続法第7条の規定する到達主義による審査開始の趣旨を潜脱することになると考えます。すなわち、許可申請前に同様の手続の履践を申請者に課すことによって、いくらでも許可申請自体を遅らせることが可能となるため、許容されるものではありません。さらに、これが許されることになると、標準処理期間を設定する意義を失うことになるため、行政手続法第6条の規定をも空文化することになっていましまいます。なぜなら、標準処理期間は申請から処分までの標準的期間を定めることにより、申請者が許可まで要する期間を予測可能とするものですが、申請前に様々な手続を必要としてしまうと標準処理期間だけでは許可までに要する期間を予測することができなくなってしまうためです。以上からすれば、貴庁が、許可申請前に市長意見照会を申請者に対して求めることは、端的に違法であるといわざるを得ません。
(2)裁量権の逸脱
市長意見照会の違法性を指摘した以上、同手続が貴庁の裁量権の範囲外であることは明白ですが、貴庁が設定する市長意見照会に係る所要期間が過大であることから、この点につき裁量権に絡めて言及します。貴庁は、市長意見照会の所要期間を1〜2ヶ月程度に設定しているようですが、これは、貴庁が農地法第4条及び第5条の許可についての標準処理期間を3週間と設定していることに比し過大であることが明白です。仮に、貴庁に市長意見照会を行う裁量権が認められたとしても、許可申請前の手続に標準処理期間を優に超える所要期間を設定することは、手続的比例原則に違背し裁量権の範囲を逸脱するもので、到底容認できるものではありません。一方で、貴庁は、フロー図において、許可申請書提出後においてもいくつかの機関に対する意見照会手続を設定し、その全ての手続において所要期間に標準処理期間を超える期間を設定しているようです。この点も踏まえると、貴庁には、許される裁量権の範囲に対する大きな誤解が存しているのではないかと疑わざるを得ません。
以上の通り、市長意見照会は法律の根拠なく行われるもので、かつ行政手続法第7条及び第6条を潜脱することになるため違法であり、仮に適法だと仮定してみても、所要期間等の運用実態が貴庁の裁量権の範囲を逸脱していることになり違法であることになります。
3.重要な権利への制限であることの確認
(1)申請者の人権保障の必要性
私有財産の保障は憲法で保障された人権であり、政策的合理性がなければその自由を制限することは許されません。農地法に基づく許可等一定の政策的規制を受ける農地といえども、その使用、収益及び処分は所有者の自由であることが原則です。同様に、職業選択の自由も憲法に保障された人権であり、自由に様々な事業を営めることが原則であり、政策的合理性がなければ制限することが許されないものです。本件手続により申請者が実現しようとしている営農型の太陽光発電事業を行うことは、以上の2つの権利行使に他なりません。そうだとすると、規制庁である貴庁には、申請者の人権に十分配慮した対応が求められています。具体的には、規制目的に照らして、そもそも行おうとする規制が必要であるのか、必要であるとして目的実現のために行う規制手段が相当であるのかを厳格に判断して対応する必要があります。
(2)利益衡量の必要性
本件手続において、申請者は、貴庁に対して、市長意見書を除いた農地法第5条に基づく許可申請書一式の収受を求めています。その理由は、貴庁による1月末日までの日付での収受印が押印された許可申請書の控えを経済産業省に提出できなければ、申請者が現在確保している32円/kwで売電する権利を維持できずに、21円/kwで事業を行なわざるを得ないことになるためです。21円/kwに引き下げられてしまうと、32円/kwにおいて想定された20年間の太陽光発電事業による収益およそ1億2000万円が、およそ650万円にまで大幅に縮小してしまうことになり、そうなると事業を行う意義自体が失われてしまうことになります。このような事態に陥れば、申請者の財産権及び経済的利益を著しく損なう結果となるため、貴庁においても最大限配慮されるべき事項であるはずです。しかしながら、貴庁においては、以上の重要事項は殆ど考慮されずに、形式不備の申請を収受してしまうことが悪しき先例となる危険性などという考慮すべきでない事項(なぜなら先述したように市長意見書の添付要求自体が違法であるからです。)を重要視し、申請書の収受を拒否する見解をご提示なさっています。貴庁による以上の対応は、貴庁が、土地が農地であることを理由に、いわばフリーハンドにより市民の重要な権利に規制を加えても構わないという認識をもっていると誤解されかねない対応に映ります。そこで、貴庁には、申請が受け付けられないことで申請者に生じる損失と、申請を拒否したことで貴庁が担保できる利益(公益)とを、十分に比較衡量して本件手続につきご判断していただくよう要望します。
4.農林水産省の促進策
農林水産省は、平成30年5月15日付のプレスリリースにおいて、「営農型太陽光発電の促進策を発表します。」、「営農型太陽光発電は、営農の適切な継続をしながら発電事業を行うことで、作物の販売収入に加え、売電による継続的な収入等による農業経営の更なる改善が期待できる取組手法です。」、「担い手の所得向上や荒廃農地の解消につながる取組を後押ししていきたいと考えています。」等と述べており、営農型発電事業を促進する方向性を示しました。貴庁においては、この促進策について十分に咀嚼できているのでしょうか。フロー図等で許可手続の内容を見る限り、許可まで徒に時間をかけている印象が否めません。もちろん、実効性のない営農型発電の事業計画は排除される必要がありますが、そのための手段として標準処理期間を大幅に徒過するような形で各機関への意見照会手続を課すことが相当であるとは決していえません。ましてや、本件手続において申請を受け付けないという対応は、計画実効性の有無の判断等の内容審査を行わずに門前払いをしていることと同じです。これでは、促進どころか、逆に規制強化に映ってしまいます。促進策に呼応した形での営農型の転用許可手続の見直しが必要と考えます。
以上縷々申し述べてきましたが、営農型農地転用許可手続の立案は○○県が行っているのでしょうから、貴庁に申し上げることはいささか酷であるかもしれません。しかしながら、具体的な許可手続を担っているのは貴庁であるわけですから、貴庁が適法かつ適正な行政手続を行うためには、以上のことを十分勘案しなければなりません。このように申し上げても、本件手続において申請を受け付けていただけない場合には、行政争訟及び損害賠償手続への移行も考えざるを得ません。貴庁におかれましては賢明なご判断がなされますようお願い申し上げます。
以上