人権の萌芽
人権の持つ性質として、固有性(人には生まれながらに人権がある)と普遍性(誰にも等しく人権がある)が挙げられます。
現在ではこれらの性質を容易に観念することができますが、近代民主主義が生まれる以前の中世ヨーロッパ社会では、特権や伝統主義が支配する社会でしたから、王や領主と農奴や商人が平等に人権を持つなどという発想自体が生まれませんでした。
近代民主主義の出発点といえるものがイギリスのピューリタン革命です。この革命は、絶対王権を振りかざす当時の国王チャールズ1世に対して議会が反発したことから始まり、騒動が激化し内戦が勃発し、クロムウェルが率いた独立派が主導権を得て、ついにはチャールズ1世を処刑してしまいます。それまでの伝統主義からすれば、臣下が国王を処刑するような革命を起こすことなど考えもつかないことだったはずです。
それでは、当時のヨーロッパで何が、特権や伝統主義を否定して革命を起こし、近代民主主義や人権思想を生み出す源流となったのでしょうか。
それは、宗教、キリスト教です。ルターやカルヴァンによって広まったプロテスタンティズムです。プロテスタントは、神を全知全能の絶対的存在とし、人間など神の栄光を顕すための道具にすぎないと考えました。
プロテスタントによれば、人間の階級など無意味なもの、むしろ神以外の人間はすべて等しく権利を持つはずだと考えました。ここに、特権を否定して、人は皆等しく権利を持つという人権の発想が生まれました。
また、プロテスタントは、すべては神の御心に沿うかどうかで物事を判断したので、社会のしくみやルールを人間の都合で変えてはならないとする伝統主義には従わずに、革命を起こすことも厭わなかったのです。
現在では当たり前に観念できる人権や民主主義ですが、その観念が生み出されるためには革命的な発想の大転換が必要でした。それを引き起こしたものがプロテスタンティズムであったというわけです。