後遺障害等級認定異議申立書(交通事故)の実例ー椎間板ヘルニアC3/4症例で14級9号が認められたもの
任意保険会社の事前認定により下された後遺障害等級認定に対して、被害者請求により異議申立てを行った際の異議申立書を掲載します。この異議申立書の筋どおりに認められたわけではありませんが、14級9号が認定されたものです。いわゆる「むち打ち症」事例においては、椎間関節高位C3/C4に関するものが少ないと思いますので、どのように立論すればよいのか、参考となれば幸いです。
後遺障害等級認定結果に対する異議申立書
令和○年○月○日
損害保険料率算出機構 御中
申立人申立代理人行政書士 幕 田 智 広
〒○○○−0000 ○○県○○市○○町○○番○○号
申 立 人 ○ ○ ○ ○
〒960−8057 福島県福島市笹木野字街道南28番地の3
上記申立代理人行政書士 幕 田 智 広
電 話 050−3786−4481
FAX 050−3730−0201
証明書番号 ○○○○○○○○○
事前認定受付番号 第○○‐○○‐○○○○○号
事故発生年月日 令和○年○月○日
被害者名 ○○ ○○
添付書類等 末尾に記載
過日、貴機構より一括社であるABC保険株式会社に対してご通知いただいた後遺障害等級の事前認定結果について、以下のとおり異議を申し立てます。
申立ての趣旨
本件事故により申立人に残存する障害については、第一義的には自動車損害賠償保障法施行令別表第二第12級13号の後遺障害と認定されるべきであり、不本意にも医学的に証明が尽くされた症状とは評価できないなどとして当該等級該当性が否認されたとしても、少なくとも同別表第二第14級9号と認定されるべきである。
申立ての原因
1.残存する障害について
(1)障害の状況
申立人には、事故発生日の令和1年7月5日から1年3か月余りが経過した現在においても、回旋障害を伴う常時性の後頸部痛が症状として残存したままである。当該症状は、事故直後から発現し、現在まで間断なく申立人を苦しませ続けている。
(2)医師が確認した理学的所見であること
当該症状については、A整形外科医院の○○○○医師(以下「A医師」という。)作成の自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(以下「後遺障害診断書」という。)における「頚椎 前屈、後屈 両回旋で頚部痛」との記載、A医師を担当医とする診療録における「頚部痛 頚椎 両側回旋で痛みあり」(書証1−P.2〜P.4)との記載、及び転院後に申立人の診断に携わったB病院整形外科の△△△△医師(以下「B医師」という。)作成の令和2年9月11日付の診断書における「交通事故後の頚部痛 慢性頚部痛状態」(書証3)との記載、並びに、A医師、B医師、同じく転院後に申立人の診断に携わったB病院整形外科のC医師及びD医師による、圧痛点へのトリガーポイント注射施行(書証1−P.2〜P.4、書証2−5月分、書証4−全ページ、書証5−6月分〜8月分)からわかるとおり、理学的所見として医師による確認がなされている。
(3)障害の重大性及び深刻性
当該症状は、常時性を有し間断なく生じているため、申立人は、十分な睡眠をとれず、日中は疲れやすく、集中力が低下し、正常な日常生活に支障を来す大変深刻な状態に陥っている。特に、仕事への悪影響は重大なもので、事故前に月50〜80時間行っていた残業が、現在では全く行えなくなっている。申立人は、元来、□□所属の公務員であって、○○支援要員として◇◇県に派遣されているが、自身に期待されている○○支援業務を思うようにこなせなくなってしまっている現況に嘆いている(書証20、書証21)。
(4)障害の将来的残存性
当該症状については、医師らによっても、その原因すら究明できていないため、治療といっても、先述したトリガーポイント注射の施行といった対処療法を繰り返すしかない状況で、A医師が後遺障害診断書に「症状は固定しており、今後改善は難しいと考えます。」と記載しているとおり、将来的な残存性を認めざるを得ない。
2.障害の部位(症状の原因箇所)及び疾患内容について
(1)トリガーポイント注射との関係
申立人を苦しめている後頸部痛が、申立人の身体のどの部位に由来しているのか。この点、先述したトリガーポイント注射が、申立人の後頸部上部右側に存在する圧痛点に対して施行されていることから、この注射と後頸部痛との関係について述べる。
まず、トリガーポイント注射施行の目的について確認すると、B医師によれば、圧痛が最も強い椎間関節近傍へリドカインを浸潤させることにより、この椎間関節近傍に分布する知覚神経を麻痺させることで一時的に痛みを緩和し、痛みの悪循環を改善すること(書証6−返答4.頚部痛に対する治療方法)である。念のため確認しておくが、ここにいう「一時的に痛みを緩和し、痛みの悪循環を改善する」でいうところの「痛み」とは、圧痛のことではなく、後頸部痛を指していることは明白である。なぜならば、一時的に痛みを緩和するのであるから、常時生じている痛みに対する処置であるのが適当であり、押さないと生じない圧痛に対する処置とすることは、医学的にはもちろんのこと、社会通念上も不適当だからである。
すなわち、申立人の治療に携わった各医師がトリガーポイント注射を施行した目的は、後頸部痛発現の原因箇所と考えられる椎間関節近傍にリドカインを浸潤させ、この椎間関節近傍に分布する知覚神経を麻痺させることで一時的に痛みを緩和し、痛みの悪循環を改善することであることが確認できる。現に、申立人は、トリガーポイント注射を施されてしばらく(1日ももたないが)は、常時感じている後頸部痛が雲散霧消するように消失し、後遺障害が生じる以前のように首を回旋できるようになる(書証8−0003、0010、書証20−P.1)のである。
そうすると、申立人に現存する後遺障害、すなわち回旋異常を伴う常時性の後頸部痛の発生原因箇所が、圧痛が最も強い椎間関節近傍であると考えるのが極めて合理的かつ適当であるといえる。そして、当該椎間関節の椎間関節高位が判明すれば、その箇所が後遺障害の原因箇所と特定できると思料する。
この点について、申立人は、令和2年7月22日のB病院整形外科受診の際、担当であったD医師によりトリガーポイント注射を施される際、注射位置と椎間関節高位との関係について質問をしている。これに対して、同医師の返答が「いつものところで、そこがC3/4ですよ。」(書証10)というものであった。一方で、B医師が令和2年8月5日の診療において、トリガーポイント注射の位置を「多分C5/6がそこだね。」(書証8−0024)などと述べているが、注射後に申立人の注射位置を撮影した写真(書証11)によれば、注射位置がC5/6よりも上の高位であることは素人目にも明らかであり、B医師の指摘は失当であり、この写真によっても、注射位置がC3/4椎間関節近傍であることが証明されている。すなわち、トリガーポイント注射のターゲットとする椎間関節近傍が椎間高位C3/4関節近傍であることになり、したがって、後遺障害の原因箇所が、椎間高位C3/4関節近傍であると指摘できる。
(2)具体的疾患の特定
もっとも、椎間高位C3/4関節近傍に原因箇所があるとしても、それは場所の特定にすぎず、次にその場所のどのような疾患が後頸部痛の原因となっているかが問題となる。この点、A医師がMRI撮影も行わずに後遺障害診断書に「頸椎症軽度あり」と記載し、B医師も申立人を頸椎症と診断(書証5−6月分〜9月分、書証7−0200)していることからすれば、骨棘などの椎体の変形による神経への干渉が原因との推測が働く。しかし、レントゲン画像を確認しても、神経圧迫が生じるような骨棘等の椎体の変形は確認できず、B医師も「すこーしあの軽度な変形とか骨棘とかも出てますから、あってもおかしくはないと思います。ま、でも、基本的にはほぼ正常としていいと思いますね。」(書証7−0261)と述べているとおり、椎体の変形を原因とすることには無理がある。そうすると、A医師が診療録において「頚椎椎間板ヘルニア」、「MRI C3/4ヘルニア軽度」(書証1−P.1〜P.4)などと表現し、B医師が診療において「椎間板の変性」(書証7−0105)と表現している、椎間高位C3/4の椎間板の変性に着目せざるを得ない。
この点、MRIにおいては、B医師が「C4/5高位横断像においてhigh intensity zoneをともなう局所の突出、及びC5/6高位横断像においても局所の突出があり」(書証6−返答5.頚部痛の発生由来)と指摘しているように、椎間高位C4/5及びC5/6の椎間板にも変性が認められており、B医師が「どうしてC3/4の椎間板変性にこだわるのかについては、私は理解に苦しみます。」と指摘しているように、椎間高位C4/5及びC5/6の椎間板の変性との相対的比較において、どうしてC3/4の変性のみが後頸部痛の原因となるのかという疑問の余地が生じ得る。
しかし、MRIでC3/4、C4/5及びC5/6各高位の椎間板の変性度を比較してみれば、いずれもヘルニアの程度は軽度ではあるが、C3/4高位の変性度が高いことがわかる。MRIの中で矢状断像を表すRADAR T2 SAGのインスタンスNo:6画像においては、C3/4高位の椎間板が、他の高位の椎間板よりも、低信号を示し、突出した椎間板が脊髄側に干渉しており、突出した部分の体軸方向の最大径が椎間板の高さを超えている(extrusion)(書証13−P.10)。これに対して、同様の状況がC4/5及びC5/6高位の椎間板においては認められない。また、MRIの中で横断像をあらわすT2 AXのインスタンスNo:4画像においては、C3/4高位において、正中から左方にかけて広く椎間板が突出(extrusion)(書証13−P.10)しており、その影響で脊髄が少々歪な形に偏平化(右方に比して左方が大きい)してしまっていて、突出した左方側は神経根に干渉している(圧迫により神経孔の幅が狭小化している)。これに対し、C4/5(No:7画像)及びC5/6(No:10画像)高位の椎間板においては、正中方向に幅の狭い椎間板の突出(protrusion)(書証13−P.10)があるのみで、脊髄の偏平化及び神経根への干渉は見られない。そうすると、やはりC3/4椎間板の変性度合い及び神経系統への干渉度合いは、C4/5及びC5/6のそれに比して高く、相対的にみれば後頸部痛の原因因子である蓋然性が高い。
(3)神経症状の医学的整合性
さらに、椎間関節C3/4高位の椎間板の変性により生じるとされる神経症状と、申立人に残存している回旋障害を伴う常時性の後頸部痛との関連性についてみてみる。
ア 神経根圧迫の場合
まず、上述したように、MRIにおいて申立人のC3/4高位の椎間板がヘルニアにより、左方の神経根を圧迫していることから、同様の場合に生じる神経症状について述べると、それは、「頸部や肩の説明できない疼痛」(書証14−P.142)、「頚部痛」(書証15)であり、申立人の症状と一致する。
イ 椎間板由来の場合
また、椎間板の外層繊維輪には周囲の前縦・後縦靱帯とともに、洞脊椎神経の神経終末があり、椎間板が損傷を受けると、当該神経終末が修復を行うために椎間板内に伸びていくことが考えられる(書証16−P.25、書証17−P.12、書証18−P.2)ため、椎間板の変性自体を由来とする神経症状について述べると、それは、「椎間板変性や炎症による刺激で関連痛として頚、肩、後頭部あるいは背部に疼痛が生じる」(書証16−P.25、書証17−P.12)とされており、これも申立人の症状と一致する。
ウ 神経症状についての貴機構の判断について
神経症状について、貴機構は、後遺障害等級認定票の別紙において、申立人が後遺障害非該当である理由として、「後遺障害診断書上、「上肢の神経学的異常所見なし」とされており、自覚症状を裏付ける客観的な医学的所見に乏しい」などと述べているが、椎間関節C3/4高位の椎間板の変性により生ずる神経症状は、頸及び肩に生じる疼痛であり、上肢に神経学的異常所見が認められないことを後遺障害非該当の理由とすることは失当であるといわざるを得ない。
以上の、トリガーポイント注射の施行位置、MRIが示す椎間板変性(疾患)の客観的状態、及び椎間関節C3/4高位の椎間板の変性により生じるとされる神経症状(客観)と申立人に残存する神経症状(主観)の比較という検討からすれば、申立人の後遺障害、すなわち回旋障害を伴う常時性の後頸部痛という神経症状は、椎間関節C3/4高位の椎間板の変性(ヘルニアによる左方神経根の圧迫又は変性それ自体)が原因であると結論づけることが、科学的にも、医学的にも、合理的である。
3.障害と事故との因果関係
次に、申立人に残存する後遺障害と本件事故との因果関係について述べる。
(1)事故の態様
本件事故の態様は、自転車で走行中の申立人に対して、左折した加害者運転の自動車が衝突(加害車両が停止まで7.5mを要していることから時速20km程度で衝突したと考えられる。)し、その衝撃で申立人が転倒し、腰から後頭部までを路面に強打したもの(書証12)である。生身の人間に大きな鉄の塊が加速度をもって衝撃を与えた態様であり、申立人に後遺障害を惹起させるには余りあるほどの事故態様である。申立人は事故直後から後頸部に違和感を感じ、翌朝から回旋障害を伴う常時性の頸部痛が発現し、ほとんど症状が改善しないまま現在に至っている。以上の経緯からすれば、申立人の後遺障害が本件事故により惹起されたものであることは明瞭である。B医師も、診療時及び診断書の記載において、申立人の後遺障害が本件事故に起因するものであることを認めている(書証8−0088、書証3)。
(2)主訴の一貫性及び治療経緯の妥当性
また、治療経緯についてみると、申立人は、事故直後から現在まで一貫して回旋障害を伴う常時性の後頸部痛を主訴としており、当初は当該症状の改善を願いA整形外科医院に通院していたが、症状の改善どころか原因さえもわからぬまま症状固定と診断され、積極的治療を打ち切られてしまっている。その後も、症状の原因究明及び改善を求めて、B病院へと転院してまで治療を継続中である。転院後も残念ながら、症状の原因は不明とされたままで、症状の改善も見込めないため、仕事への悪影響を何とか軽減させるべく、令和2年8月28日から、週1回のペースで接骨院へと通院している(書証9)。申立人は、事故を起点として間断なく医療機関を受診し、現在においてもなお回旋障害を伴う常時性の後頸部痛への治療を継続せざるを得ない状況にあるのであり、事故を起点とした因果の連鎖が現在もなお続いていることが明瞭となっている。
(3)経年性の変性を理由とした場合に生じる矛盾点
一方で、申立人の後遺障害の原因が、椎間関節C3/4高位の椎間板の変性であることは上述したが、B医師が診療時に「普通の加齢性の変性ですね。」(書証7−0293)などと述べているため、C3/4高位の椎間板の変性が事故に起因して生じたものではなく、経年性の変性ではないかとの疑念の余地が生じる。しかし、仮に、C3/4高位の椎間板に生じている変性が高齢化に伴う経年性の変性だと仮定するならば、現在既にC5/6高位の椎間板の変性も生じていることから、エビデンスに基づけば、C5/6高位の椎間板の変性度合いがC3/4高位のものよりも高い(MRIのT2画像であれば低信号を示す)状態にあるはず(実際のT2画像上ではC3/4の方が低信号を示している。)である。なぜならば、高齢者群において、上位(C3/4高位)の椎間板に経年性の変性が生じる機序としては、下位頸椎(C5/6及びC6/7高位)の椎間可動性が減少し、このための代償として上位の頸椎椎間の可動性が大きくなることの影響で生じるとされている(書証19−P.20)ため、そうすると、未だ非高齢者群に属する(書証19−P.20)申立人の下位頸椎の可動性は保たれているはずであり、現在においてその下位頸椎たるC5/6高位の椎間板に変性が生じているのであれば、椎間可動性が大きい同高位の椎間板の変性がC3/4高位の椎間板よりも進行するはずであり、そうであるはずの現象を飛び越えて、まだ可動性が小さい上位頸椎たるC3/4高位の椎間板において、C5/6高位の椎間板よりも変性が進行している現状は、エビデンスである椎間板の経年性変性の機序と整合しないからである。その不整合の原因は、経年性の変性という仮定が誤っているからであり、したがって、申立人のC3/4高位で生じている変性は、経年性のものではなく、(1)で述べたことも加えて考えれば、おのずと本件事故に起因して生じた蓋然性が高いとの結論に至る。
4.後遺障害等級認定で必要とされる証明の程度について
(1)医療機関における被害者救済
本件に類似する後遺障害については、外傷性頸部症候群、いわゆる「むち打ち症」などとカテゴライズされてしまい、医学的な解明が進んでいないことから原因不明として扱われ、積極的治療が施されない傾向にあると認識している。まさに本件においても、A医師及びB医師は、申立人に生じている頸椎椎間板ヘルニアを「ごく軽度」と称し、端から後頸部痛の原因がヘルニアではないと決めつけ、したがって申立人の発する原因究明のための質問にも、受け流すような姿勢をとっていた。たとえば、令和2年6月12日のB病院への転院後初診となるB医師による診療においては、診療が開始してまもなく、神経学的検査など皆無の段階で、「んーと、たぶん全然関係してないです。」(書証7−0090)、「こんなんヘルニアなんか全然なしですね。」(書証7−097)などとB医師は述べていて、まるで申立人に障害を認めさせない方向へのバイアスがかかっている姿勢であるかのように感じられた。もちろん、医師の経験則に従っての、そして多忙を極める診療の中での姿勢であることは理解している。しかし、たとえば、B医師は、「だからもうこれはもう事実としてこれはあるのは事実だけども、じゃこれが症状と関係してんですかって言われたら、分からないとしか言いようがない。」(書証8−0088)などといった発言を何度か繰り返していたが、わからない、つまり医学的な解明がなされていないためにわからないというのであれば、医学的に明快に説明できる症例に比して、より緻密に観察し、可能性のある原因を果敢に追及していかなければなるまい。そうでなければ臨床医学の進歩はなく、申立人のような患者は救済されないままとなってしまう。
(2)自動車損害賠償責任保険における被害者救済
同様に、むち打ち症事案での自動車損害賠償責任保険における後遺障害の認定においても、担当医師の言動を鵜呑みにし、医学的な証明がなされていないことを理由に、後遺障害非該当とする判断が繰り返されるようなことになれば、申立人のような交通事故被害者は、医療上も(身体的、精神的にも)、保険制度上も(経済的にも)救済されないことになってしまい、まさに踏んだり蹴ったりの状況に追いやられてしまうことになる。そこで、保険制度上は、被害者の救済という、その制度趣旨に則り、むち打ち症事案のような医学的な解明が未了の案件については、そもそも医学的な証明が不可能であることが前提なのだから、医学的な証明が尽くされていないことを理由に形式的に後遺障害非該当などとしてしまうのではなく、より実質的な審査、すなわち事故由来の後遺障害に繋がる事実及び論拠は全て拾い上げた上で、後遺障害を認める方向で前向きに審査を行い、それにより誤って虚偽主張の者を拾ってしまうことを恐れるよりも、真に救済すべき被害者を漏らすことなく確実に救うといった姿勢が必要だろう。
(3)自動車損害賠償責任保険における証明の程度
その上で重要なことは、後遺障害とされる上で必要とされる証明の程度についての認識である。もちろん、悪意をもっての不正な保険請求は廃除する必要があるが、それよりも、真の被害者が救済されない事態を保険制度上避けなければならないことは必至なのだから、障害部位の特定、障害と現症状との因果関係、障害と事故との因果関係等については、保険請求者の立証において相当程度の可能性が認められれば、是認される必要がある。なによりも、本件のように医学的な解明が未了の事案においては、そもそも医学的に明快な立証は不可能なのであるから、立証の負担を減じない限り、被害者が救済されることはないわけであり、保険制度趣旨から、そう要請されているからである。そして、「相当程度の可能性」という証明の程度については、民事訴訟において、過失行為と結果との因果関係の立証の場面で最高裁が認めたものである(最判平成12年9月22日)が、民事訴訟よりも被害者救済が求められている保険制度において、民事訴訟以上の立証の負担を請求者に求めることは不合理だからである。
(4)本件事案における証明の状況
上述してきた、本件事案においての証明状況を再度確認してみる。
まず、他の疾患箇所との状態比較及びトリガーポイント注射の位置により、椎間関節C3/4高位の椎間板の変性(ヘルニア)を原因疾患と特定した。この点は、MRI及びトリガーポイント注射施行後の申立人を撮影した写真において客観的な説明を尽くしている。
次に、椎間関節C3/4高位の椎間板の変性により生じる椎間板の変性自体による神経症状及び左方神経根圧迫による神経症状が頸部痛であり、申立人に残存する回旋障害を伴う常時性の後頸部痛症状に一致することを、MRI及び添付文献を用いて客観的な説明を尽くしている。
さらに、疾患箇所である椎間関節C3/4高位の椎間板の変性の度合いが、まだ高い可動領域を保っている椎間関節C5/6高位の椎間板の変性の度合いと比較して高いことから、疾患が本件事故に起因していることを、MRI及び添付文献を用いて客観的な説明を尽くしている。
以上によれば、本件事案は、医学的解明が未了の範疇に属してはいるが、医学的にも高い蓋然性を伴った(ゆえに、相当程度の可能性よりも優れた)証明がなされたと考える。
5.後遺障害等級の該当性について
以上述べてきたように、申立人には、本件事故を契機として生じた頸椎椎間関節C3/4高位の椎間板の変性(ヘルニア)によって、回旋障害を伴う常時性の頸部痛という後遺障害が残存している。この後遺障害については、椎間板ヘルニアの神経系への干渉を示すMRIT2 AXのインスタンスNo:4画像その他の画像、A医師及びB医師の診察時に行われた頸部の両側回旋という検査手技に反応して顕れた頸部痛という神経学的所見(書証1−P.2〜P.4、書証3)、並びに事故直後から現在に至るまでの後頸部痛を訴える申立人の一貫した主訴及びそれに対応した診療内容が記された診療録等により客観的にも立証が尽くされている。
そして、申立人に残存する回旋障害を伴う常時性の後頸部痛は、常時生じているものであり、かつ事故後1年以上にわたって間断なく申立人を苦しめているものなのだから、頑固性を有し、自動車損害賠償保障法施行令別表第二第12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当する。
したがって、申立人の後遺障害については、自動車損害賠償保障法施行令別表第二第12級13号の後遺障害が認められるべきであり、少なくとも、同別表第二第14級9号の後遺障害は認められなければならないと考える。
以上のとおりですので、申立人の後遺障害等級認定につきまして、再度ご検討いただきますようお願い申し上げます。
以上
【添付書類等】
□ 情報媒体
・CD−R A整形外科医院撮影MRI情報
□ 書類
・書証 1 診療録−A整形外科医院
・書証 2 診療情報請求書−A整形外科医院
・書証 3 診断書−B病院、B医師
・書証 4 診療録−B病院
・書証 5 診療情報請求書−B病院
・書証 6 医療照会状−B病院整形外科、B医師
・書証 7 診療録取書−令和2年6月12日B病院整形外科
・書証 8 診療録取書−令和2年8月5日B病院整形外科
・書証 9 領収書(写し)−C治療院
・書証10 令和2年7月22日電子メール文面
・書証11 写真−トリガーポイント注射位置の撮影
・書証12 写真−事故現場再現写真
・書証13 「脊椎ドックガイドライン2011」P.9〜P.12
http://www.spine-dock.jp/images/guideline/guideline2011.pdf
・書証14 「むち打ち損傷ハンドブック第3版」P.142
・書証15 「C4神経根症状を呈したC3/4頚椎椎間板ヘルニアの2例」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjaost/107/0/107_0_340/_pdf/-char/ja
・書証16 「頚椎の外来」P.24〜P.25
・書証17 「脊椎疾患と痛み−頚椎・腰椎変性疾患の診断と治療−」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca1981/7/4/7_4_355/_pdf/-char/ja
・書証18 「痛みと鎮痛の基礎知識 – Pain Relief −脊椎」
http://plaza.umin.ac.jp/~beehappy/analgesia/basic-spinal.html
・書証19 「頸椎症性精髄症診療ガイドライン2015」P.20〜P.21
・書証20 陳述書−○○○○(申立人)
・書証21 陳述書−□□□□(申立人の職場同僚)
・補足資料 1.α病院診療録
(2019.7.5〜2019.7.10)
2.A整形外科医院診療録
(2019.7.13〜2019.12.29)