成年後見人への郵便物の回送嘱託
成年後見人が、成年被後見人宛の郵便物を管理する上で、郵便物の成年後見人への回送嘱託制度(民法第860条の2)があります。回送嘱託は、原則として6ヶ月間と規定されています(同条第2項)。もっとも、それ以上の期間郵便物の回送が必要となる場合があり得ます。成年被後見人のために必要があるのならば、成年後見人としては、裁判所を説得して、郵便物の回送を継続する必要があります。以下は、私が担当した成年後見事案において、そういった必要性から、裁判所に対して申し立てた書面です。
回送嘱託に係る上申書
平成○○年○○月○○日付で提出しました「成年後見人に宛てた郵便物等の回送嘱託申立書」について、以下のように補足し、上申します。
1.回送嘱託の必要性
東西病院に入院中である成年被後見人の後見太郎氏は、脳梗塞を原因とする不可逆的な遷延性意識障害の状態にあることから、同病院を退院する見込みはありません。そして、後見氏の現在の住所地は、入院前に届け出ていた従来のものにすぎず、実際は既にその地の住居を退去しています。したがって、後見氏の住所地に宛てた郵便物を後見氏本人及び成年後見人である私が受領できないことから、先回回送嘱託申立てを行いました。以上の状況は、現在においても同様です。
先回の申立てによりお認めいただいた6か月の回送嘱託期間内において、様々な郵便物が回送されましたが、特に、医療費、社会保険、税及び障害者制度に関する重要性の高い郵便物の送付割合が多かったため、今後これらの郵便物が回送されないことになると、後見事務遂行にとって著しい障害となります。
もちろん、個々の郵便物を調査した上でその送付先機関と協議の上、宛先自体を成年後見人の住所地に変更してもらうことが私の責務であることは承知していますし、実際にそのような働きかけを行いました。そうすると、たとえ成年後見人の住所地宛に郵便物の送付をお願いしても、全てが送付可能というわけではなく、その一部については成年被後見人の住所地宛にしか送付しない取扱いをする行政機関があることが分かりました。たとえば、市役所が交付する個人番号が記載された証明書類は成年被後見人の住所地宛以外には送付を認めませんし、税務署が交付する更正決定通知書等税申告に係る書類も同様です。
すなわち、後見氏の心身及び居住の状況も踏まえた上で申し上げれば、成年後見人である私による郵便物の送付先機関に対する個別の働きかけでは、後見氏も私も受領できない郵便物が生じてしまうことを回避できないのです。
もっとも、成年後見人の住所地宛に送付されない取扱いを受ける郵便物の種類は限定されることから、通常の後見事務遂行に影響しないといえるかもしれません。しかし、限定的とはいえその種の郵便物の送受の必要が生じたならば、受領に苦慮する(不可能な場合も想定されます)こととなり、後見事務遂行に大きな悪影響を及ぼします。
郵便物の回送嘱託制度においては、成年被後見人の通信の秘密保持の観点から、嘱託期間を限定し再嘱託は原則として認めない運用がなされていると認識しています。この点、一括りに成年被後見人といってみても、個々において様々な状況が想定されるわけですから、あらかじめ一般的に嘱託の必要性と相当性が認められる場合を想定しておき、その場合には原則と例外を反転させて運用すべきではないかとも考えています。少なくとも、後見太郎氏を成年被後見人とする本事案においては、回送嘱託の必要性が高いと考えますので、その旨上申します。
2.回送嘱託の相当性
原則として、成年被後見人の通信の秘密が保持されることは当然ですが、回送嘱託されることと通信の秘密が侵されることとが直接的に連関するわけではないと認識しています。なぜなら、成年後見人は、回送嘱託されない場合においても、後見事務に必要かつ相当な範囲内で、成年被後見人に届いた郵便物を開披して内容確認せざるを得ない場合があるため、成年後見人による通信の秘密の侵害が回送嘱託を契機として行われるわけではなく、通常の後見事務においても侵害の危険性が常に存在しているといえるからです。このことは、成年後見人による成年被後見人の通信の秘密の侵害が、成年後見人が置かれた客観的状況によるものではなく、同人の主観的意識に基づくものであるということを示唆していると思います。すなわち、通信の秘密を侵す意図を持つ成年後見人であれば、回送嘱託されなくても侵害行為を行うでしょうし、後見事務に必要かつ相当な範囲内で郵便物を確認するという意識を持つ成年後見人ならば、回送嘱託されても侵害行為など行わないでしょう。
この点、私は法律専門職を基底として成年後見人に就任していますので、成年被後見人の自由保障と後見事務における必要行為の価値を衡量し、相当な範囲内での通信に係る事務行為を行うことができると自負しております。具体的なことを少し申し上げれば、これまで回送された郵便物において、そういった衡量の結果、開披自体を行っていない郵便物もあります。
また、後見氏の心身状況からすれば、事実上、後見氏宛の全ての郵便物の内容を確認できるのは私だけであり、そうであるならば、全ての郵便物が私に回送される方が合理的であるといえます。