車庫証明の正しい理解(13) 住所の表記について
自動車保管場所証明(以下、車庫証明という。)申請の際、使用の本拠の位置、保管場所の位置、車庫証明申請者の住所等の住所表記について、福島県の多くの警察署において、住民票(印鑑登録証明書)に記載されている住所の通り表記するよう指導している。たとえば、「大字」や「アパート及びマンション名」が省略されていたりすると、補正を命じられる。 この点について、警察署は、車庫証明申請後に行われることが予定されている、印鑑登録証明書の添付を要する運輸支局等での自動車登録手続の際に、車庫証明申請書記載の各住所が印鑑登録証明書記載の住所と不整合であると当該登録手続に支障を来すのではないかという配慮から、そのように指導していると主張している。 しかしながら、運輸支局等での自動車登録手続における住所表記(住所コードによる)は、大字やアパート・マンション名の表記が省略されたり、地番の表記においてハイフンを用いたりしており、住民票通りの住所表記が求められているわけではない。 そうすると、警察署が車庫証明申請者に要求する住所表記の正確性は過剰な要求ということになる。それは車庫証明申請自体の目的であるところの保管場所の確保という観点から考えてみても、証明書を発行する警察署(長)としては当該申請時において保管場所とされる住所が特定される程度の住所表記があれば足りるわけであるから、同様に過剰な要求と言わざるを得ない。さらに、警察署は、申請書のみならず自認書や承諾書の住所表記までにも同様の正確性を要求し、省略等があれば補正を求めているのである。これでは、先の警察署の主張と適合しておらず、目的なき過剰な要求となっている。 そもそも、警察署が主張するように、運輸支局等における自動車登録手続に配慮していると言うのであれば、警察署は運輸支局等と連絡を密にし、自動車登録手続の実情を把握していなければなるまい。しかしながら、縦割り行政と揶揄される通り、警察署がそのような確認を率先して行うことはないのである。実際の警察署窓口での対応は、車庫証明申請者に対して闇雲に住民票通りの住所表記を要求し、大字やアパート・マンション名が記入されていない(自動車登録段階でこれらの記載は必要ないことは先述した。)と訂正するまで申請書を受理しないといった硬直的対応がなされており、その目的自体が置き去りにされている感がある。もっとも、番地表記については住民票上に「2番地の1」あるいは「2番1号」と表記されていても、申請書に「2−1」と記入すれば受理するのだから、もはやまるで意味不明の対応となってしまっている。 以上のような警察署窓口の硬直的対応は、昨今の潮流である住民の利便性向上に向けた行政事務の簡素化に逆行するものとなってしまっている。警察署には、行政サービスを提供する側に位置しているという自覚を再確認していただきたいと思う。 なぜそのような警察署の窓口対応になってしまったのかを、福島県警からの聴取から推論すると、警察署の本音が、車庫証明申請者への配慮にあるのではなく、車庫証明申請者からのクレーム回避にあるからだと思われる。使用の本拠の位置の住所を書き間違えていた(この場合は明らかな間違い)車庫証明申請者が、自動車登録ができなかった理由は警察署が住所の間違った申請書を受理し証明書を発行したことにあるとして、警察署にクレームを入れた事例が過去に少なくなかったようである。その対応策として、警察署は車庫証明申請者に住民票通りの住所表記を要求するようになったと推測される。住民票記載の通りのこれ以上正確なものはない住所を申請書に書くよう指導していれば、先の例のようなクレームを回避できると踏んでいるのであろう。これによれば、申請者への配慮という警察署の主張は、建前にすぎないことになる。 長々と述べてきたが、結論を述べよう。車庫証明申請書に記入する住所は、なにも住民票通りの表記である必要はない。そのような法令上の根拠はないし、調べた限り警察内部の内規の類いも存在しない。もちろん、申請書に住所を記入せよとあれば、正確な住所を記入することが原則である。住所は、市町村が議会の議決を経て定めたものであり、住所といえばそれを指すものだからである。もっとも、社会生活上においては、住所を省略表記する慣習が存在する。先のハイフン表記などはその最たるものである。慣習は立派な法源であるのだから、住所を省略表記することには法的根拠が存しているのである。さらに、行政機関が発行する各種証明書類(たとえば本人確認のための重要書類となる運転免許証)でさえも、その書類が果たす目的(たとえば運転者に運転の許可が与えられていることの確認)に応じて、住所の省略表記が行われている事実がある。警察署としては、使用の本拠の位置や保管場所の位置が特定される程度に省略された住所表記が申請書に記載されていれば、保管場所の確保という行政目的からしても必要十分であるのだから、その表記通りの証明書を交付すればよいのである。それ以上の表記の正確性を求めることは必要性も相当性も見当たらず、法令の根拠を欠いた恣意的な行政行為との批判を受けかねないことに注意すべきである。仮に、使用の本拠の位置等の住所表記が、後の自動車登録手続における表記と些細な点で食い違っていてもなんの問題もないのである。それぞれの行政庁におけるそれぞれの行政目的が達成されればよいわけであるから、些細な住所表記の齟齬など取るに足りないことなのである。取るに足りないことを大袈裟に取り上げて、申請者の負担を増大させるような警察署の対応は、早急に改善されるべきである。それでも、どうしても補正が必要だと強弁するのであれば、警察署(長)が職権で補正すればよいのであって、わざわざ申請者に訂正印の押印まで求め、申請者の行政手続を滞らせることは控えるべきである。 福島県警の通達「自動車の保管場所証明等事務処理要領の制定について (交規)第286号」の「3 運用上の留意事項」の(1)には次のようにある。警察署は正確な住所表記を要求
自動車登録手続への配慮
自動車登録手続の実際
警察署の対応は目的なき過剰要求
横の連携なき行政
簡素化の潮流に逆行する警察署
警察署の本音
車庫証明申請における住所の表記
警察署は交通規制課通達を咀嚼せよ
「自動車保管場所証明書の申請等は多数の県民が関わる行政手続であることから、制度の運用が円滑かつ適正に行われるよう、関係事業者等に対する周知を図るとともに、職員及び関係業務の受託者に対する教養及び指導を徹底すること。」
各警察署窓口では、この通達の文言を十分に咀嚼した対応が望まれる。